合同会社の社員が死亡した場合の相続
2022.06.21更新
事 例
合同会社の社員であったAさんが、亡くなりました。相続人は、Aさんの妻と子2人(兄と弟)です。次のそれぞれの場合において、Aさんの合同会社の持分は、どのように相続されるのでしょうか。
- 1 Aさんが遺言を残していない場合
- 2 Aさんが、持分を兄に相続させる旨の遺言を残していた場合
- 3 妻及び弟が、Aさんの相続を放棄した場合
解 説
1 基礎知識
(1)合同会社の社員とは
会社法(以下「法」といいます。)でいう合同会社の「社員」とは、従業員のことではなく、合同会社に対する出資者のことを指します(会社法578条)。
社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、合同会社の業務を執行します(法590条)。
(2)合同会社の社員が死亡した場合
合同会社の社員は、「死亡」により退社となるため(法607条1項3号)、原則として持分を相続することはできません。
しかし、例外的に、「当該社員の相続人が当該社員の持分を承継する旨」を定款で定めることができます(法608条1項)。
① 定款に上記の定めがない場合
原則に従い、相続人は、持分を相続することができません。その代わり、死亡による退社に基づく持分払戻請求権(持分に相当する金銭等の払戻しを請求する権利。法611条1項)を相続します。
② 定款に上記の定めがある場合
例外的に、相続人は、他の社員の同意を得ることなく、死亡した社員の持分を相続することができ、合同会社の社員となることができます。
2 事例の解説
(1)Aさんが遺言を残していない場合(事例1)
① 定款に上記の定めがない場合
Aさんの相続人3名が、持分そのものではなく、持分払戻請求権を相続します。
この持分払戻請求権については、必ずしも金銭によって払い戻されるとは限らないこと等から、法定相続分に応じた当然分割とはならず、相続人間での共有となり、遺産分割の対象となると考えられます。
なお、会社法上は、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(法611条2項)と定められていることから、当該合同会社が債務超過の場合等、持分払戻請求権が無価値となる可能性も考えられます。
また、仮に合同会社の社員がAさん1名であった場合、その持分を承継する者がおらず「社員が欠けた」状態となるため、合同会社は解散となります(法641条4項)。
② 定款の上記の定めがある場合
Aさんの持分は、相続人の法定相続分に応じて承継されます。
したがって、その後遺産分割により兄のみを社員としたい場合には、一度相続人全員の相続承継加入の登記をした上で、社員となることを希望しない相続人は、任意退社又は持分譲渡の方法により退社しなければならないと考えられます。
(2)Aさんが、持分を兄に相続させる旨の遺言を残していた場合(事例2)
① 定款に上記の定めがない場合
仮に遺言があったとしても、定款に上記の定めがない場合は、持分そのものを相続することはできません。
その場合、「「持分払戻請求権」までを、兄に単独で相続させるとは解釈できない」として、相続人間で争いになる可能性もありますので、定款の定めを確認の上、解釈に争いが生じる余地のないように遺言を作成する必要があります。
② 定款の上記の定めがある場合
Aさんの持分は、遺言に従い、兄に相続されます。
なお、兄弟姉妹や甥姪以外の法定相続人は、その法定相続分に応じた遺留分(最低限の遺産取得割合)を有しています(民法1042条)。
本件では、妻は、遺産に対して「1/2(法定相続分)×1/2=1/4」の割合、弟は、「1/4(法定相続分)×1/2=1/8」の割合の遺留分を有しています。
したがって、Aさんの遺産が合同会社の持分のみであった場合、妻及び弟は、当該持分を相続した兄に対し、その評価額に対する各遺留分の割合の金額を請求することができると考えられます。(民法1046条)。
(3)妻及び弟が、Aさんの相続を放棄した場合(事例3)
相続を放棄した者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
したがって、本件では、相続を放棄した妻と弟は、初めからAさんの相続人とはならないため、兄のみが、定款の定めに従い、持分又は持分払戻請求権を単独相続することになると考えられます。